DATE : 2007/03/09 (Fri)
両方の乳房から二人の子供に同時授乳することを「タンデム授乳」(タンデムは二人乗り、縦列などの意)という。「ダブルフィーディング」と呼ぶ人もいる。
最もよく見られるのは双生児を同時に授乳する場合である。もっとも、双子といっても、同じようにお腹がすくわけではないから、同じように授乳しなければならないというわけでもない。同時に授乳しようとすると、その子なりのペースで母乳を飲むことを阻害しかねない。
三つ子以上になると、全ての子供のペースに合わせ食欲を満足させるのはとても難しくなる。乳腺は必要な量の母乳を合成でき、母乳で三つ子以上を上手に育てた母親はたくさんいるが、別の選択肢を使うのが普通である。
双子でなくても、先に生まれた子供が離乳しないうちに次の子供が生まれた場合もタンデム授乳が便利である。この場合、妊娠の最後になると母乳はこれ から生まれてくる子供向けに初乳になる。初乳状態の母乳を飲ませ続けることも、これを切っ掛けにして上の子を断乳することもある。
異論を唱える人もいるが、女性によっては3歳、まれには7歳の子供にまで母乳を与え続けることがある。過期授乳(extended breastfeeding)と呼ばれるものである。これを支持する人は、母乳の栄養上、情緒上の利点を挙げ、子供が飲む間はずっと母乳を与える。反対者 は7歳まで授乳を遷延させると、子供の情緒を未成熟なままにし、性心理学的な問題を残すと信じている。
アフリカなどの発展途上国の一部では、複数の母親が一人の子供に授乳することも普通にみられる。この「共同授乳」は出生時はHIV陰性だった乳児にHIV感染が拡大する原因の一つとして注目されているDATE : 2007/03/09 (Fri)
WHOは全ての母親に母乳栄養を勧めている。WHOの基準を満たす病院では粉ミルクは禁止されてはいないものの、母乳で育てうる子供には与えられない。新生児に粉ミルクを与えると、母乳栄養の確立を損なう。
母乳栄養を選択しなかったり、不可能だったりする場合は育児専用に調整された粉ミルクを通常哺乳瓶の中に入れて利用する。フォローアップミルクのように離乳時に栄養の補助として用いられるものもある。これはヒトの子供用に各種成分が調整されているので、他の哺乳類の乳(牛乳など)や脱脂粉乳など、未調整のものを与えるより健康上はるかに優れている。
母乳栄養より劣る方法ではあるのに、粉ミルクはモダンでイージーかつ便利な選択肢として新しい母親向けに市場が開拓されてきた。2004年にイギリスの健康省(Department of Health)が調査した所、34%の女性が粉ミルクは母乳とほとんどかわりがないと信じている。1979年には、新生児に対する補助的な粉ミルクの授乳、不適切な粉ミルクの宣伝、母乳栄養を妨げるような母親の態度の変化を助長することについてInternational Baby Food Action Network (IBFAN)が注意を喚起している。しかし、1980年代以降、アメリカや日本は他の地域に先駆けて、より母乳に近い成分の育児用粉ミルクを開発してきたため、当時とは状況に違いがある。
DATE : 2007/03/09 (Fri)
直接授乳することが不可能な場合でも、母乳栄養は可能である。母乳を人工的に搾って保存しておけば、不在時においても自分の母乳を与えることができる。母乳を搾るには自分の手で搾乳してもいいし、搾乳用ポンプを用いてもいい。SNSや哺乳瓶にいれて保存する。搾乳した母乳は7時間以内に用いる。それ以上保管する場合は冷蔵ないし冷凍する。冷蔵で8日間、冷凍すると4ヵ月利用可能である。研究によると、搾乳された母乳の抗酸化作用は時間の経過とともに減少するが、それでも粉ミルクより高いレベルにある。
しばらく母子が引き離される場合でも、搾乳することで母乳の出を維持する事ができる。赤ん坊が嚥下できない場合は経鼻カテーテルを用いれば胃内に直接与えることが可能である。
搾乳は、歯が生え始めた子供にかまれたり(母親が痛がればやむことが多いのだが)して乳首が痛む場合も便利である。
搾乳した自分の乳を直接、ないしは病院をとおして他の人に提供する場合もある。他人の乳などわが子に飲ませたくない、という向きもあるが、それでも母乳栄養の恩恵に与りたいという人もいる。
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母乳栄養以外の選択肢については授乳を 参照のこと。 乳房から母乳を飲む場合と、哺乳瓶から飲む場合とでは、赤ん坊の飲み方が異なる。前者の場合、吸引するというより、舌で乳首をマッサージして絞り出す感じ に近いし、乳首はそれ程口の奥まで入らない。
哺乳瓶ではもっと勢い良く吸引できるだろう。そのため、母親の乳房から母乳を飲むのになれるまでは、混合栄養を行ったり子供に哺乳瓶や乳首型おしゃぶりを吸わせたりしないことが勧められる。通常のものより長めに作られた矯正乳首(Orthodontic teats)の方が乳房の代用としては好ましい。
母乳のみで育てる場合、平均して一日に6 - 14回の授乳が必要である。この所要量は子供によって大きく異なる。新生児期は一回 30 - 90 mlで、乳児期に入ると 120 ml 程度である。これも子供次第であるし、発育につれ量は多くなる。子供の空腹のサインを認識することが重要である。
また、乳の必要量は子供自身が知っている という立場から、乳を欲しがる頻度、一回当たりの授乳時間は子供に従うようにアドバイスされる。乳腺での母乳の合成量は、搾乳される母乳の量(頻度と時 間)に依存している。出生時体重によって赤ん坊の飲みっぷりは異なるだろうし、母親もこのくらいの体重ならこのくらい飲むだろうと思っているだろう。 だが、必要量はその子供が決めるのであって、親が勝手に思い込んではいけない。
直接授乳する場合の心配な点として、赤ん坊が飲んだ母乳の量が正確にはわからないというのがあげられる。これは心配する必要がない。赤ん坊は必要な だけ飲むからである。おむつの量をモニターすることも容易であって、出生後5-6日過ぎた新生児なら、そこから適量かどうかがわかる(尿によるおむつ交換 は24時間あたり、布製のおむつなら8回、使い捨てのおむつなら5-6回で、便では2-5回である)。2-3ヵ月になれば、排便の回数が目安になる。もっ とも正常でも10日間も排便がない場合もあり、幾分不正確である。
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母乳だけで育てる場合、乳児の栄養は完全に母乳に依存することになる。したがって、母親が健康的なライフスタイル、特に食生活を維持することが重要 である。赤ん坊が大きくて成長が速い場合、妊娠中に母親が蓄積した脂質はすぐ消費されてしまい、食べても食べても母乳を作るのに追い付かなくなることがあ る。授乳中の食事は通常、妊娠中並みに高カロリー高栄養であるべきである。「授乳中の栄養」研究会(The Subcommittee on Nutrition during Lactation)は、一日当たり1500 - 1800 kcal を勧めている。栄養不足の母親からも栄養価の高い母乳は得られるが、十分な栄養を取った母親と比較すると母乳中のビタミンA、D、B6、B12の含量が少なく、乳の出も悪くなりがちである。
また、母乳栄養だけだとビタミンKが不足しがちになる。このビタミンは血液凝固に関係するので、不足すると頭蓋内出血で死亡する原因になる。日本では新生児に経口でビタミンKを投与しているが、母親自身がビタミンKを十分摂取することも重要である。緑黄色野菜や納豆に多く含まれる。
授乳中に完全に禁止される食品はないが、母親が何か特殊なものを摂取した場合、赤ん坊にはそれに対する感受性があるかもしれない。授乳アドバイザーによっては、赤ん坊が夕暮れ泣き(baby colic、生後6 - 8週程度の新生児が決まって夕方になると泣くこと)やおならを始めたら豆のようなガスを生ずる食品を控えるように指導する。
母乳栄養を行う母親は喫煙とニコチン摂取に注意すべきである。母親がヘビースモーカー(一日当たり20本を超える)である場合、母乳の生成が減少することや、嘔吐、下痢、頻脈、落ち着きのなさの原因になることが知られている。こういった場合、母乳栄養の利点と、ニコチンによって引き起こされる可能性のある問題のどちらが大きいかは現在研究中である。喫煙環境では乳幼児突然死症候群(SIDS)が起りやすいことも知られている。喫煙者の母親は、授乳開始前から授乳中にかけて煙草を吸わないようカウンセリングされ、節煙や禁煙について誰かに手助けしてもらうことを勧められる。
アルコールの 飲み過ぎが子供にとって危険であることも知られている。母親の養育テクニックがなかなか巧くならず、子供の体重増加が遅くなる。安全なアルコールの量がど の程度かはまだコンセンサスがない。しかし、たまに少し飲む程度なら問題がないだろうというのが一般的な見解である。しかし、一日グラス一杯のワインで も問題になると信じている人もいる。それほどアルコールを飲まなかった場合でも、母乳中のアルコール濃度は30 - 90分後にピークになる。既に知られている胎生期のアルコール曝露の危険性を考えると、医療関係者は安全側に振って、授乳中の母親はアルコールを控えるべ きだと信じている。
授乳中の母親がカフェインをとりすぎると、落ち着きのなさ、不眠、神経質、多飲といった状態が子供に起こりうる。適量(一日1 - 2杯)ならば通常全く問題がない。授乳中の母親はカフェインを控えるべきだとアドバイスされる。
マリファナに含まれるようなカンナビノイドはAAPによって乳汁移行性のある化合物として挙げられている。研究によるとマリファナ中のある種の成分は血中半減期が極めて長い。生後一ヵ月の間に母親の母乳からカンナビノイドを摂取したことと、その子が一歳の時に運動能力が低かったことは関連があると思われた。